夢の中の恋

寝る前は蒸し暑くて薄着で寝込んだら、肌寒くて夜明け頃に目が醒めてしまった。起きたばかりの時は夢を鮮やかに覚えていたので、夢に出てきた女性の名前をネットで探しているうちに、夢の記憶のディテールを失った。テレビで見たことのある女優、それも相当に歳が若い。夢の記憶がすべて失われる前に、覚えていることをここに書き残しておこう。夢の中での恋の話である。

夢の中で、僕は彼女が高校を出て結婚して子供が出来てその子が成人する頃には還暦かぁ…などと皮算用しているので、僕が40歳前、女性は高校1年生、という設定だったのだろう。彼女に連れられて、京王線だと思われる電車である駅に降り立つ。木造平屋の商店が並ぶ駅前の道を歩きながら、夢の中の僕は「ここは大学生の頃に住んでいたことがある」と言っていた。夢の記憶に残る街並みは昭和40年頃のレトロなもので、そんな町に住んだことはないと今なら解るけど、夢の中の僕は彼女の気を引こうとして嘘をついたのか。ずんずん歩いていく彼女は時々僕に話しかけるのだけれど、年長者に対する敬語口調ながら命令的な口調で、僕はよく「はい」と答えていたことは記憶に残る。頭のいい娘だなと感じ、迂闊なことを言うと鋭くツッコまれそうな警戒心を抱きつつ、歩きながら僕は彼女の話に耳を傾けていたのだけれど、なかなか辛辣でウィットに富んだことを言っていて、夢の中の僕は感心していたことは覚えているのだけれど、残念ながら彼女の言っていた内容を何ひとつ覚えていない。

ただ、駅に降り立った時に「誘惑しちゃいましたね」と彼女に囁かれたことだけは鮮明に覚えていて、その一言で僕は彼女に恋をしてしまったのだと思う。歩いていく道の両側にはレトロな商店が並んでいたのだけれど、異様に多いのが駄菓子屋(昭和40年頃の感じ)で、チープな玩具と駄菓子を並べ、店内には鉄板焼きのテーブルがあって、中高生がお好み焼きとか焼そばを作って食べている。そんな駄菓子屋の前を何軒も通り過ぎたあと、彼女は自分の馴染みの店という歩調で一軒の駄菓子屋に入ったので、僕もついていく。この時のことで目醒めた今でも鮮明に覚えているのは、天井からも玩具が吊り下げられていて、その中にボールの後ろに色鮮やかなビニールの房の付いたものがあり、これを空に向け放り投げたら落ちてくる姿が美しかろうと思って、「よし、公園で遊ぼう」と僕がその玩具を手にとったこと。そうしたら、彼女も同じものを手にとったので、二つの支払いをしようと店のおばさんに五百円硬貨を渡したら、怪訝な顔をされた。「ネットなら四桁はしますね」と後ろから彼女が言うので、追加の支払いをしようとすると、横から彼女も五百円硬貨をおばさんに差出し、おばさんはいくらかの釣銭を彼女に渡した。僕は無性に恥ずかしい気持ちになったところまで覚えているけれど、たぶんここで目が醒めたのだと思う。

さて、夢に出てきたおかっぱ頭(ボブカットと言うのかな)の女子高生が誰だったのだろうとネットでタレント名鑑などをあたっていたら、運よく見つけることができた。杉咲花という女優だった。嫌いじゃないけれど、それほど好きだというわけでもない。若い女優では「3月のライオン」という映画に出ていた清原果耶の清楚さに惹かれていて、彼女の主演したNHKドラマ「蛍草」は欠かさず全話見たぐらい。なんで杉咲花なんだろうと思うけれど、いつの間にか杉咲花が好きになっている僕なのであった。