少数派でミーハー

70年代の東京にはジャズ喫茶というものが沢山あって、大学に入ったばかりの僕はよく先輩たちに連れていってもらった。
ビルの地下にある店が多かったけど、窓のない煙草の煙がたち籠めるような空間で沈思黙考する先輩たちがすごく大人に見え、その退廃的な雰囲気に「デカダンス」を感じて憧れた。
ひとりでも行ってみるようになったけど、モダンジャズの流れる空間に僕は溶け込めず、そのうち行かなくなった。
僕はボーカルの無いインストゥルメンタルが好きだけど、モダンジャズは合わなかった。むしろクラシックのほうが合うけれど、詳しいわけではない。バロックよりもロマン派が好きなミーハーだ。近年では女子十二楽坊が好きだったけど、彼女たちの収益に協力するほどではなかった。青春時代からずっと、音楽を聞くことに対する投資はしてこなかった。コンサートに行くわけでもなく、レコードやCDを買うことも少ない。数少ない例として、若い頃にマンハッタン・トランスファーのレコードを買って、擦り切れるほど聞いた。ハーモニーのあるボーカルは好きだ。
いっぽうで、僕はマイケル・ジャクソンの楽曲とダンスが嫌いだ。あざとく耳障りなサウンドで、ダンスは露骨に下品で醜悪に感じてしまう。世界はそんなマイケル・ジャクソンを賞賛し、ポピュラーミュージックにその影響が大きくなっていくのを見て、僕は自分の音楽的感性が少数派であり、価値観を表明すれば敵を多く作り孤立化すると考えて封印してきた。反対意見を強く言えるほどの、音楽的素養も知見も無いしね。