今は知らないけれど、かつて商業誌の漫画作品のページ数は印刷・製本の都合上、8の倍数だった。だから投稿作品のページ数も8ページ、16ページ、24ページ、32ページといった条件であった。その後、商業誌がこぞって新人発掘のための漫画賞を始めた頃も、ギャグ漫画は16ページ、ストーリー漫画は32ページ(選考結果ページに1ページ割いて31ページの場合もあった)だったと記憶している。
こんなことを思い出したのは、LINEスタンプのセット規則が8の倍数となっているからである。8個、16個、24個…という具合である。手始めに静止画8個セットを出してみたのだが、他のクリエイターのものを見ると24個以上、なかには40個というものも珍しくないようである。同じ価格で市場に出すと考えると、8個では割高感は否めない。簡略な図案で表現範囲の広いキャラクターでも作らないかぎり、量産は難しいと思った。
普段からLINEでスタンプを使うことも無く、ネットのレスポンスでも生真面目に議論してしまうネクラな性質なので、キャラクターを作ったところで表現すべき内容を思いつかない。感情表現のワードに視覚表現を付けるのがスタンプの基本だとしたら、僕はそのワードが思いつかないのである。常日頃、僕は感情表現に長文を要する。話が長い、メンドクサイヒトなのだ。
思えば、感情表現を曖昧にして軋轢を避ける社交術が、終生身につかなかった人生だった。感情表現を和らげ曖昧にすることで、対人関係を円滑にすることがチャットのスタンプ文化であるから、LINEスタンプのクリエイターとして僕ほど「相応しくない人間」もいないだろう。だから、挑戦してみたいと思う。僕は天邪鬼なのだ。
2000年にこのサイトを開設してから、無料サーバーを転々とした挙げ句に現在の有料サーバーに落ち着いたわけだけれど、WEB紙芝居というGIFアニメ作品が2000年当時としては珍しく、そのおかげで2001年の後半には小学館の「デジタルクリエーター名鑑」に掲載されたこともあった。
LINEスタンプには「動くスタンプ」という、最大でも24コマ、再生時間1~4秒という制約で APNG というデータ形式がある。これの作り方には、かつてGIFアニメを作っていた要領を応用できると考えた。感情表現としてのワードに画をつけるという考え方を一旦離れ、思いつくままに画を動かしてみよう。
最初は失敗であった。審査を落ちまくった。APNG は動画化をサポートされていない端末環境では、1コマ目が静止画像として表示される仕様である。LINEもこの仕様を活かしていて、1コマ目が静止画像スタンプとしても有効なものを求めている。LINEユーザーの端末環境も千差万別なのだな。「起承転結」的な発想を捨てなければいけない。
審査を通す要領を得て、ボリュームを必要最低限と判断した16個に設定して、5月30日に第1弾「動くピンボーイズ」、そして6月10日に第2弾「動くアニマルズ」をリリースした。16個の動画スタンプを作るのにおよそ10日、定年退職して毎日が定休日の暇人ならではの強みかな。
売れたらいいな、という願望は否定しないけれど、たぶん売れることは難しい。スタンプ使い放題の定額制プレミアムプランの対象だけでも、1200万ものスタンプがあるようだ。定額制対象外を入れたら、たぶん1500万以上はあるだろう。毎日いくつものスタンプがリリースされるなか、既に固定客を得ている人気クリエイターの新作が優先的にアナウンスされている。それにも増して、知名度の高いアニメ作品や芸能人のスタンプ、そして企業が宣伝用に無料配布しているスタンプが目立つ。宣伝用の無料配布は企業がLINEに少なくない費用を払っていて、たぶんLINEの大きな収益源となっているのだろう。無料で使えるソーシャルメディアとは、基本的に宣伝媒体事業として成り立っているビジネスモデルなのだから、健全な姿だと言える。
このようにLINEスタンプという巨大化した市場では、ユーザーの目に触れることはとても難しい。ここで「ひとヤマ当てよう」なんて考えるほど子供ではないけれど、作品を投稿できる場所としては、発行部数の僅かな同人誌よりは遥かに作り甲斐を感じている。だからこれからも、性懲りもなく続けていくだろうな。