ハインラインとトランプ

1950年代前半の米国では、教育機会を限定され低所得に甘んじる非白人層の中で低俗なコミックブックが流行し、支配層の白人層(キリスト教右派など)がこれを危険視してネガティブキャンペーンを展開、世論を誘導して法的規制を強化し、50年代後半にはコミックブック業界が崩壊した。
マーベルコミックで黒人ヒーローのブラックパンサーが登場するのは60年代後半だから、米国の公民権運動の歴史がアメコミの世界にも刻まれているのだ。一般的な日本人が知っているアメコミヒーローが、スーパーマンやバッドマンのような白人ばかりなのに、僕たちはそれについて何も疑問を持たなかったな。
さて、50年代米国でのコミックブック排斥運動の中で、健全な(白人優位の維持)青少年向け文学の担い手のひとりだったのが、ロバート・A・ハインラインだった。のちにSF文学の巨星となる彼は、この時期生活の経済的安定を求めて、白人の優位性を暗示するような価値観をSFの虚構に仮託するようなジュブナイル作品を書いていたみたい。プロなら需要があれば書くよね、僕は読んでないけど。
米国では差別撤廃の共通理念として、「人種」ではなく「利益」に価値基準が移行していったように思う。「利益」を得るために有効な、際立った「知力」や「体力」が個人の価値を高めることで、人種の劣位神話は否定されていったけど、この実力主義を覆したい負け組と、キリスト教徒の白人優位一派が推したのが、トランプ氏なのだろう。