民主主義はバトル・ロイヤルなのか

バトル・ロイヤルはプロレスの試合形式であり、多数のレスラーによる駆け引きが妙味である。
ルールは主催団体によって多様だけれど、僕が少年時代に楽しんでいた日本のものは、最初から参加レスラー全員がリングに上がって開始され、多人数で一人をフォールしたりトップロープ越しにリング外に落として失格とすることが認められていたけれど、迂闊にフォールにいくと他のレスラーにフォールされるリスクがあるため、トップロープ越しにリング外に落とすのが常であった。
「バトル・ロイヤル」では、最後に1対1となる前に強敵を排除するのがセオリーだから、強いトップレスラーから順にその他のレスラーが協同して排除する。この利己主義が産む協力体制が(プロレスだから主催者による演出やレスラー同士の人間関係もあるだろうけれど)人間臭くて僕には面白かった。

「欧州一の最貧国」と呼ばれるモルドバ共和国では人種・文化・宗教・思想の多様性のため政党勢力が弱小拮抗しており、無理な連立によって政権は短命に終わるのだけれど、モルドバの政局はこのプロレスのバトル・ロイヤルに例えられる。
こういう国では内戦も起こりやすく、モルドバでもチャウシェスクを倒した隣国ルーマニアの反ロシア勢力の後押しで国内の親ロシア勢力を圧迫したけれど、トランスニストリア戦争に敗れて沿ドニエストル・モルドバ共和国というロシア語系住民による分離主義地域を内包したままである。

欧米旅行経験もある日本在住の中国人女子留学生のブログ(ブックマークしておかなかったので出典を明示できない)に書かれていたのは、中国共産党の一党独裁が今の中国にはベストなのだという認識だった。欧米流の民主主義を中国に導入するのは時期尚早、地域によって経済・教育のレベルに大きな格差があり、同じ漢民族ですら地域文化と価値観に隔たりが大きい現在の中国に自由と民主主義を導入したら、混乱と内戦を生むだけだと言う。二大政党制という二極化には分断とマイノリティ抹殺が生じ、多党制による不安定な政権は警察や役人の腐敗・軍隊の独善化を生み易いと看破している。中国共産党治下の裕福な漢民族家庭の出身で、若年者特有の潔癖症も加味されたバイアスがプンプン臭う、ツッコミどころ満載のブログではあるが、理想より現実を採るという価値観に、中国人らしいクールな賢明さも感じてしまった。

各国で強調してイラクに軍事介入しフセインを倒した後、イラク国民は幸福になっただろうか。ミャンマー国軍の自国民に対する無意味な暴力はすぐにでもやめさせたいけれど、すぐに国連軍派遣とはいかないのだろうな。