大和田獏さんの嘆きを思う

2020年4月現在、世界を震撼させ日本でも猛威を振るっている新型コロナウイルスの正式名称は severe acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS-CoV-2) という。そして、この SARS-CoV-2 によって引き起こされる感染症はCOVID-19と呼ばれる。4月23日のCOVID-19による死者は今までの最多となる29名。その中には女優の岡江久美子さんも含まれていた。1956年生まれだから、僕よりも1学年上(生年では2歳上)。夫の大和田獏さんと仲睦まじい様子だったから、妻を亡くした大和田獏さんの嘆きはいかばかりだろう。
2014年に愛妻を失い今もなお喪失感に苛まれている旧友と、大和田獏さんとが重なる。今は感染拡大を抑止するために外出を自粛するようにと緊急事態宣言が出ていて、多くの人が家に閉じ籠り、夫婦の諍いが増え、コロナ離婚などという言葉も生まれている。不幸な言葉だ。男にとって妻とは、産んでくれた母よりもその男を理解しようと努め、男の人生を見守ってくれる存在である。
離婚という危機は、多くの場合夫の身勝手さが作るものであり、妻の賢明さがそれを防ぐ。そんな危機に見舞われないだけでも、妻の賢さ逞しさに感謝しなければいけない。そんな、男の人生の要のような存在と死別する悲しみ、喪失感、斬鬼の念。わが妻がいつまでも健やかにと、思わず祈ってしまう。人の命はすべからく貴いものだけれど、家族の命は格別で、なかでも妻の命が自分よりも先に尽きるとは、考えたくもない。
それを失ってしまった大和田獏さん。愛する人を失って悲しむ人は皆痛ましいけれど、自分の身に置き換えて想像すると、僕は妻との死別が一番恐ろしい。