黄色い涙

6月10日は永島慎二先生の命日である。
先生の代表作は一般に「漫画家残酷物語」だとされているようだけれど、僕にとっては「若者たち」だ。
1974年にこの作品がNHK名古屋でドラマ化される際に、1966年にフジテレビが放送した人気ドラマとタイトルがかぶるので、脚本家の市川森一さんが永島先生の一連のシリーズ名の「黄色い涙」というタイトルを選んだ。
僕はこれをリアルに観ていたけれど、小椋佳さんが歌う主題歌(佐藤春夫の「海辺の恋」)もよかった。
僕はこの歌が鼻歌で出てしまうくらいに覚え親しんでいた。
「海辺の恋」という詩が佐藤春夫と谷崎潤一郎夫人との許されざる恋の歌だと知ったのは、ずっとあとのことだ。
永島慎二先生の画風はとても魅力的で、僕の漫画仲間にも大きな影響を与えた。
岬とおるにもその香りがするし、素直な性質の篠塚としおの作画には永島慎二タッチが濃厚に出ている。
僕だって惹かれたけれど、敢えてその誘惑に背を向けていた。
それが、僕の画風が定まらず表現力を伸ばせなかった所以であったかも知れない。
永島先生が亡くなった時、僕は岬とおるや篠塚としおと語り合いたかったけれど、遠く離れて暮らしていて、それは果たせなかった。
今になって知ったのだけれど、岬とおるは永島先生よりも9ヶ月早く、この世を去っていたんだな。
僕たちを含め、多くの「若者たち」が迷走の挙句に歳をとり、還暦を迎えたんだと思うと、その中に岬とおるが居ないというのは、とてもとても寂しい。