具象表現での省略と象徴化が目標

デジタルでのお絵描きは物理的なスペースを必要とせず、画材を片付ける手間も無いところが気に入っている。
その反面、デジタル作品は主にネットを使って公開するので印刷メディアと同様に「複製」が前提であるうえに、アナログ作画のように「原画」が存在しない。意図的にデータサイズを落とさないかぎり、「複製」と「原画」は同じデジタルデータなのだ。
作画には、光と影と遠近法によって視覚情報を作る方向性と、輪郭線によって情報を明確にする方向性がある。
デジタル作画を始めた頃は前者の方向で作画をしていたけれど、もし仮に写実性を極めたとしても、それは「写真」の贋作を作ることでしかないと気づいてしまった。
原画が存在するアナログ作画であれば、写真と見紛う写実性には少なくとも「技巧」という価値を留められるけれど、原画の存在しないデジタル作画では作画も写真も画像データなので、カメラで撮影できる視覚情報を忠実に再現できたとしても虚しい。
光と影による作画で「作品」としてのオリジナリティを確立するためには、リアリティを極めた技巧をもって通常では知覚できない視覚情報を生み出すか、写実性を捨てて抽象化や象徴化によって感性を視覚化するしかない。
残念なことに僕にはそこまでの写実技巧は無く、さりとて抽象化や象徴化によって視覚化すべき思想も会得していない。
そこで、2022年からは輪郭線による平面的な作画に活路を見出そうと決めた。
輪郭線による作画で写実性を求めるとディテールの執拗な描き込みに向かってしまうけれど、敢えてディテールの省略と象徴化を目指すことで、具象的視覚情報において「個性の発露」たる創作性を生み出したいと考えている。
今はまだ途中の段階で劇画のような作画だけれど、「ボウリングのピンをモチーフにする」という枷を課して習作を続けていくなかで、自分なりの省略と象徴化の方向性を見つけ画風を作り上げてみたい。