《陰謀論》による陰謀隠蔽

なぜトランプがあれほど支持を得たのか、2年前のNHK記者のレポートを読み返してみる。
この古いレポートを、ある人の「陰謀論は神のようなもの」という例えを用いて総括するならば、人は神の実在を体験して神を信仰するのではなく、自分の精神を安定させてくれるから神を信仰する、ということになるのだろう。
極論すれば、神がほんとうに存在するかなどは問題外なのである。だからファクトチェックは無用なのだ。神を信じていても救われなかった事実を示したところで、神を信じないことで救われる証明にはならない。ファクトチェックはこの場合、存在しないものを信仰する行為によって精神が安定しない人の立場を補強するだけである。

さて、封建時代における戦費は、領主や領民兵士の自費によって賄われてきたけれど、中央集権化がすすみ常備軍が整備されるようになってからは、税収は平時の軍備維持で精一杯となる。いざ戦争となると、不足する戦費を調達しなければならない。そこで戦勝後の収益を担保に借金をする方法が普及し、融資する側はリスクヘッジのために戦争当事者双方に融資するか、金融業者同士で保険機能を確立しリスクの分散を試みる。こうして国家や地域を覆う金融システムは発展し、そのファンドは投資や先物取引の投機市場の設立にも資本参加し更に成長していく。
学術的にも資本の運用と成長を促進する経済学が進歩し、通貨の流通・交換の支配を「破綻を防ぐ制御」として正当化してきた。
ほとんどの金融機関は国民のための公的機関ではなく民間資本に拠る機関であり、その巨大な機関による投資は個人投資を凌駕しているのだから、世界の政治経済が民衆による議論や選挙ではなく、経済力の多寡によって誘導されてきたのは歴史的事実であり、《陰謀論》でもなんでもない。
資本所有の頂点にいる富豪一族にたまたまユダヤ系が多いからといって、彼らの資本はユダヤ人排斥勢力にも資金提供していたのだから、ユダヤ人繁栄のために資本を運用していたとは言えない。
また、これら国際金融資本は、収益のためならめまぐるしく協力もし対立もするドライな存在であり、力を合わせて世界征服を目指すような単純な存在ではない。トランプが「ディープステート」として一括りにするのは、トランプ一族のような敗者側資本からの視点で、勝ち組の国際資本を嫉視する乱暴な定義に過ぎない。
ほんとうに問題なのは、世界経済を破綻から防ぐ仕組みが国際金融資本に寡占支配され、彼らの利益が優先された結果、地球人類に大きな貧富格差を生んでしまっていることだろう。
資本主義に見せかけや偽善、利益誘導ではない、本質的なノブレス・オブリージュを導入して貧困問題を解決しようとすることが、疑似科学に潜む迷信や誇大広告と同様に扱われて《陰謀論》とされることは、知的階級をしてこの発想から遠ざけ、胡散臭いものとして実現を不可能にしてしまう。
トランプのような、すぐに馬脚を顕すような浅墓な人間をして民衆を扇動せしめたことこそ、理想を葬る《陰謀》だったのかも知れないけれど。